•  設計者の皆さんはおおよそ気づいていても,なかなか公言できないでいると思うのですが,設計図面とは,多くの推測を基にして作成される仮説のかたまりであるという現実があります.
  •  筆者の設計経験においても,外国での製品の対象ユーザーが本当に求めていることを知るのは難しいことでしたし,どのような使われ方をするのかも想像の領域であることがほとんどであったことを記憶しています. また,製品が壊れないように製品の寸法を決めるのも,結構エイヤッと決めていたものでした (結構いい加減な設計者だった? それはそうですが,そのようにしかやり様がなかったのですから仕方がありません). 若い頃でしたので,不具合が起こるたびに工場に呼び出されてはベテランの生産技術者や品質技術者に追及され,落ち込んでおりましたが,今から考えるとそんな必要はなかったのだと思います. 
  •  なぜ設計不具合を出しても落ち込む必要がないのかですって? その理由を今からお話しすることにいたします.
  •  日本の設計現場では,まだ一般的には知られていませんが,欧米では原子力発電所や航空宇宙産業などの設計活動へのPRA(Probabilistic Risk Assessment,確率論的リスクアセスメント)という手法の導入が盛んに研究されています.この方法は,従来の設計とはきっちりと決められるものである(このことを決定論的であるといいます)との態度を改め,設計とは,ある確からしさを持って決めるものである(これを確率論的であるといいます)との前提に立っているところに特徴があります.つまり,設計とは不確実な作業なので,その不確実性をきちんと管理していきましょうという方法論なのです.PRAについては,ここでは詳しくは論じませんが,このように,設計とは元来不確実な作業であり100%の確実さはありえない,という考え方が世の中に認識されるようになってきているのです.
  •  「知っていると思われることでも、数字で表現できないならば、我々は本当にそのことを十分知っているとは言えない。 そのことについて十分に知っていなければ、そのことを思うように取り扱うことはできない。」 
  • (リスク分析工学、John X.Wang & Marvin L.Roush著より)

      このように,設計者は常に不確定な情報を元に設計を行わなければなりません。 この結果、設計の成果物には必然的に不確定さが内在することになります。 多くの企業は製品開発の完了時にはそれらの不確定さは全て排除されたとの前提で製品を市場にリリースしていますが、そのことを定量的に証明する方法は存在していません。

  •  では,そのような不確実さはどこから来るのでしょうか? 次表に不確実さの由来を列挙していますので,ご覧になってみてください.きっと “そうだよな”,と思われるのではないでしょうか.
  • 不確実さの由来 説明
    ランダムネス でたらめ,不規則,ポアソン分布 なにかが突然故障する
    モデル誤差 単純化による捨象,不完全な記述 未知から来る限界
    不完全情報 知ることの限界 同上
    曖昧さ Fuzzyなこと,言語表現の不正確さ 人間社会の限界
    概念の不分明 未分節,抽象的表現 未知から来る限界
    価値観の変化 揺れ動く不確定さ 価値の相対性
    未知 100%真の自然認識はない 科学技術の限界
    固有の分布 自然に依存するバラツキ 誤差
  • (出展:東海(2003))